ちょっと不思議な話
自動車を乗り回す大学生というと、贅沢品を乗り回すスネカジリの道楽息子みたいなイメージがありますが、そんなことはありません!
北海道というと「牧歌的」でのどかなイメージを持たれている方が多いと思うのですが、はっきりいってそれは幻想です。
「るるぶ」やテレビのグルメ番組などでは自然に囲まれた良い部分のみ掻い摘んで紹介していますから住みよい雰囲気ですよね?
しかし、現実は厳しい。
自然が多いことは誠に結構なのだけど、ものには程があるというのを実際に定住すると思い知らされます。
まず、何が厳しいかというと移動が大変なんです。
街と街の間の距離が異常。
数十キロの間、コンビニもガソリンスタンドも無いなんてあたりまえ。
警察が速度違反の取り締まりをしていない道路もたくさんあります。
そのかわり、携帯電話も通じません。
そんな道で故障でストップなんて悲惨です。
2ストロークのバイクはガス欠の恐怖が付きまといます。
説明が長くなりましたが、自動車というものは道民にとって切実な生活必需品なんです。
西部開拓時代の馬みたいなもんです。
しかし、学生の全部が自動車を保有しているわけではありませんから、誰かの自動車を言葉巧みに担ぎ出すことが重要。
たまに誰かの運転で相乗りし、遠くの街に繰り出し「文化」に触れるのがとっても楽しかったな。
ここから不思議な話。
ある晩秋の夕方、私と先輩のKさんとFさんでカローラⅡ所有者のHさんをそれこそ「言葉巧み」にドライブに誘い出しました。
『夕飯を食べに行こう』と・・・
無口なHさんは言われるがままカローラⅡを発進させます。
KさんがなぜかHさんに『ガソリンちょっと補充したほうがいいんじゃない?』と囁きます。
Hさんは無言でスタンドへ行き、ぼそっと『レギュラー千円分・・・』
ガソリンが詰まったところでKさんが『たまに北見でご飯にしない?』
自然と方向は北見へ・・・
北見とは紋別から100kmくらい離れています。
途中できつい峠があり、楽な道のりではありません。
Fさんが『Hくん悪いね』とねぎらいの言葉をかけます。
HさんのカローラⅡですが、オーディオでは私達が持ち込んだジミ・ヘンドリックスやクリームの曲がガンガン鳴っています。
ちなみにHさんの趣味は尾崎豊とか長渕剛とか川村かおり?とかです。
私とKさんとFさんで音楽談義に興じている瞬間もHさんは無言で運転に集中しています。
Hさんは車の運転がはっきり言ってヘタクソです。
何がヘタとは表現しにくいですが、ど下手です。
Hさんが無言なのは、私達の会話についていけない以上に、運転に集中するのがやっとなんです。
長い道のりでしたが北見に無事到着、ミスタードーナッツで夕食です。
なぜ、わざわざ北見でミスドなのか?
当時の紋別にはファーストフードという食文化が存在しませんでしたからミスド、ケンタ、モスなどは若者の憧れだったんですよ。
コーヒーをさんざんおかわりして店員に嫌がられて店を出ると夜の10時くらいでした。
帰りの運転も当然Hさん。
カローラⅡの所有者ですから。
気配り上手なFさんがHさんに声をかけます。
『Hくん、疲れたらいつでも言ってよ。運転変わるから』
『大丈夫です・・・』Hさんがボソッと答えます。
Fさんは4年生、Hさんは2年生。
帰りの運転は夜なので道路上の交通量が少ないせいか、スムーズなものでした。
それに往路よりもHさんが更に運転に集中していたので、Hさんとしてはスピードを出していたのかもしれません。
もしかしたら怒っていたのかもしれません。
北見から紋別に向かうルートの真ん中くらいに湧別という場所があります。
チューリップで有名な土地で、周辺には遠軽という街があり、この遠軽はアニメーターの安彦良和の故郷としてマニアには知られているようです。
遠軽から湧別を通る幹線道路は単調な一本道。
ちょおっと怒っているHさんが無意識でアクセルを開けます。
そのとき私は助手席。
Fさんが後部座席の右側、Kさんが助手席の後ろ。
ヘタッピーのHさんがやけにスピードアップするので、私は少し恐怖を覚えました。
私はメーターパネルの速度計を覗き込みました。
針は“時速80㎞”でした。
Hさんの運転で80kmなんて未知の世界なんで思わぬ恐怖を感じたのでしょう。
私は恐怖心を覚えた自分を恥じました。
意外とスピードが出ていないことに安心した私は、運転しているしているHさんのむこうの窓の外を眺めました。
自転車が見えました。
誰も乗っていない自転車が。
駐輪されている自転車ではありません。
カローラⅡと並走しているんです。
無人の自転車が。
『変なの』と私は思いました。
不思議だなっと思いましたが、私はそのままやり過ごそうとしました。
そのとき後部座席のKさんが私に声をかけます。
私がメーターを覗き込んだりしていることに対してです。
『Hくんの運転、そんなに怖い?』
『運転がどうとかじゃなくて、窓の外に変なものが見えた』
『何が?』
『誰も乗っていない自転車が見えて、それが車の至近距離をしばらく並走してた』
『ふーん』
そのまま私が変なこと言ってんなーで終わろうとしていた数十秒後のことです。
Fさんが一言。
『俺もみたよ。無人のママチャリが走ってた』
車内の雰囲気は妙な雰囲気となりました。
怖い!という感じでもなく。
とにかく妙な感じ。
混乱はしていないんだけど、収拾がつかない雰囲気。
だって、ビビるほど怖くもないし、UFOを目撃したような感動も無い。
何ともいえない妙な気分。
Hさんはその間も無言。
○○○○荘に到着しドライブの余韻を楽しみつつ各自の部屋に別れます。
その時もHさんは無言。
まるで水木しげるのマンガに出てくる“メガネのあいつ”みたい。
究極の被害者キャラなんです。
Hさんは永遠に。
ちょっと不思議なHさん。
だけど普通なだけのつまんない人間が多い、つまんない世の中だからHさんは貴重。
どうせ付き合うなら普通な人間つまんないもん。
多数派というか主流派の人間って、本当につまんないから。
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