衝撃降下90度
制空権は連合国側に奪われていた。
戦略爆撃機B29による本土爆撃が毎晩のように行われていた時代。
そのような条件下で、極限のスピードに挑戦し続けた操縦士と技術者の物語である!
大戦末期、テスト・パイロットの台場と技師の山越はある実験機の開発に没頭していた。 それは超音速で飛行可能なレシプロ機の開発である。
B-29は高性能の護衛機を引き連れ超高空で日本上空に飛来し、焼夷弾で市街地や工業の生産拠点を焼きまくっていた。
絨毯爆撃を防ぐには超高速の迎撃機を開発するしかないのだった。
可能ならば超音速戦闘機だ。
高高度において米軍の護衛戦闘機以上の速度を発揮するには、ジェット戦闘機を開発するのが理想である。
しかし、戦争で疲弊しきった日本の工業力ではジェット戦闘機の開発は非現実的であった。
日本軍の下した決断は、作りなれたレシプロ戦闘機(プロペラ機)で超音速戦闘機を作ろうというものだった。
まったく無謀極まる試みであるけれども、これが男のロマンってもんだってんだ!
作品内に登場する実験機『キ‐99』が凄まじく格好いい!
松本零士のメカニックデザインのセンスが凝縮されているといっていいでしょう。
異形の二重反転プロペラ!
圧倒的な存在感のターボ・スーパーチャージャー!
ついでに排気タービン!
役立たずの電熱服!
松本零士の描く“機械”はとにかく格好いい!
八丈島上空でテスト・パイロット台場は『キ‐99 1号機』で最初の急降下実験に臨む。
機体は急降下時の衝撃と振動に耐え切れず空中分解!
台場は間一髪脱出しますが、飛散した機体の破片によって右足を失ってしまう。
実験機が空中分解したことを台場に詫びる山越。
台場は「空中での失敗は俺の責任だ」と言って山越を気遣う。
台場は竹でできた義足をつけて2回目の実験飛行へ。
『キ‐99 2号機』はまたもや空中分解!
台場は右目と左手を失ってしまう。
開発者の山越は自信を喪失し実験を諦めようと台場にうちあける。
しかし台場は、
「お前のような優秀な技術者がいたから俺たちは安心して戦争を始めたんだぞ!」
「実験を止めるなら俺を殺せ。そして3号機を燃やしてから、女みたいに泣け!」
(いいやりとりだなあ。男臭が充満しています)
1号機と2号機の欠点を分析し、最後の実験機『キ‐99 3号機』が完成します。
ありあわせの材料をかき集めて作った機体。
高オクタンのガソリンをようやく入手しての実験飛行。
台場のセリフが泣ける。
「もう戦争なんか関係ない。俺の右目と左手と右足を奪った音速の壁を超えることだけが俺の戦いだ」(よく覚えていないけどこんな台詞だった)
いいですねえ!
自らの信念に邁進する男の姿は。
3回目の実験飛行。
降下実験を開始する『キ‐99』
それを発見した米軍のP-47が迎撃に向かう。
迫り来るP-47!
焦る台場!
急降下し続ける2機の戦闘機!
己の信念の為だけに実験に臨む男の夢が、戦争という不条理な暴力で砕け散ろうとする!
ここで多くの読者は叫ぶはず。
“これは台場と山越の個人的な戦争なんだ!頼むから邪魔をしないでくれ!”
P-47のパイロットは日本機の性能を侮り一緒に急降下を続けるが、機体の強度が限界に達し空中分解。
加速を続ける『キ‐99 3号機』
速度計は時速1200㎞/hに近づき、ついに時速1225km/hを超える!
マッハに達したのだ!
音速を超えた瞬間、台場の周囲は静寂につつまれる。
地上で台場を待つ山越のもとへ上空から轟音が聴こえてくる。
「ソニック・ブームだ・・・」
呟く山越。
物体が音速を突破した瞬間にのみ発する衝撃波の音だった。
そして涙する山越・・・
台場が己の夢に挑戦し、限界を打ち破ったことを悟ったのだ。
そして台場が空に散ったことも。
戦史に残らないが、戦争という暴力が支配した時代にも必死に夢を追い続けた男たちがいたことを松本零士は淡々と描ききった。
個人ではどうにもならない時代の大きなうねりの中であっても、自らを失わず、流れに逆らい、戦い続け、人知れず消えていく男。
戦場まんがシリーズは美しい男の物語である。
映像化を望みます。
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